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COLUMN

2019.04.09税務情報

事業承継税制と併用する相続時精算課税制度のポイント(平成29年度、平成30年度税制改正)

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1. はじめに
 中小企業の円滑な事業承継(非上場株式の承継)を実現するために、平成21年度税制改正において「事業承継税制」が創設されました。創設当初は使い勝手が悪いとの声が多かった同制度も、税制改正を重ねるたびに使い勝手が向上し、最近では実務で目にすることも多くなってきました。
 本稿では、事業承継税制と相続時精算課税制度の併用が認められることとなった平成29年度税制改正、及び、事業承継税制と併用した場合の相続時精算課税制度の適用範囲が拡大することとなった平成30年度税制改正について、それぞれポイントとなる点の確認をしたいと思います。


2. 平成29年度税制改正 ~贈与税の納税猶予と相続時精算課税制度の併用が可能に~
(1) 背景
 従来、事業承継税制の認定が取り消された場合には、その適用を受けた特例受贈非上場株式等については、相続時精算課税制度の適用を受けることはできず、暦年贈与によった場合の税率により贈与税額が計算されることとなっていました。
 例えば、相続税評価額5億円の非上場株式について贈与税の納税猶予の適用を受けて贈与をしていたケースにおいて、認定が取り消された場合、約2億6千万円(※(5億円-1.1百万円)×55%-6.4百万円)もの贈与税が課税されることとなってしまいます。
 この高額な贈与税課税のリスクが、事業承継税制の利用の妨げの一要因となっていました。

(2) 改正内容
 上記のような状況を背景として、平成29年度税制改正において、事業承継税制と相続時精算課税制度を併用することが可能となりました。
 事業承継税制と相続時精算課税制度を併用すると、認定が取り消された場合に、暦年贈与による税率ではなく、相続時精算課税制度による贈与税及び相続税の税額の計算方法が適用されることとなります。
 例えば、相続税評価額5億円の非上場株式について贈与税の納税猶予の適用を受けて贈与し、相続時精算課税制度を併用していたケースにおいては、認定が取り消された場合、認定取消時に贈与税95百万円、相続発生時に相続税95百万円、合計1億9千万円(※贈与税 (5億円-25百万円)×20%=95百万円、相続税 (5億円-36百万円)×50%-42百万円=190百万円)が課税されることとなります。(財産は5億円の非上場株式のみ、相続人は子1名のみと仮定)
 相続時精算課税制度を併用した場合は、暦年贈与に基づく計算となった場合と比較して、トータルの税額が大きく減少している点がご確認いただけると思います。


3. 平成30年度税制改正 ~相続時精算課税制度の適用範囲の拡大~
 上記の平成29年度税制改正において認定取消時の税負担を減少させる措置が講じられましたが、平成30年度税制改正においては更なる使い勝手の向上が図られました。

(1) 背景
 従来の事業承継税制では、「先代経営者から後継者に対しての非上場株式の贈与及び相続」が対象とされていました。また、事業承継税制と併用する場合の相続時精算課税制度の適用範囲は、通常の相続時精算課税制度と同じ「60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫への贈与」とされていました。
 そのため、オーナー家以外の第三者が保有している株式については、事業承継税制を適用することができませんでした。

(2) 改正内容
 平成30年度税制改正において、10年間の「特例措置」が創設され、猶予の対象となる非上場株式の割合の制限(総株式数の2/3)の撤廃や、納税猶予割合の引き上げ(80%から100%)がなされるとともに、贈与者等の範囲が「(代表者以外・親族以外も含む)複数人の株主」に拡大されました。
 それに伴い、事業承継税制と併用する際の相続時精算課税制度の適用範囲についても、「60歳以上の者から、20歳以上の者への贈与」へと拡大され、受贈者が贈与者の子や孫でない場合でも適用することが可能になりました。


特例措置一般措置
事前の計画策定等5年以内の特例承継計画の提出
2018年4月1日から
2023年3月31日まで
不要
適用期限10年以内の贈与・相続等
2018年1月1日から
2027年12月31日まで
なし
対象株数全株式総株式数の最大3分の2まで
納税猶予割合100%贈与:100% 相続:80%
承継パターン複数の株主から最大3人の後継者複数の株主から1人の後継者
雇用確保要件弾力化承継後5年間
平均8割の雇用維持が必要
事業の継続が困難な事由が
生じた場合の免除
ありなし
相続時精算課税の適用60歳以上の者から
20歳以上の者への贈与
60歳以上の者から
20歳以上の推定相続人・孫への贈与
(出典:国税庁、一部筆者加工)


4. おわりに
 創設当初は使い勝手が悪いとの声が多かった同制度ですが、税制改正を重ねるたびに使いやすくなっており、現在では十分検討に値する制度になっています。
 同制度を適用するにあたっては、認定が取り消しとなった場合の税リスクについても十分に検討することをお勧めいたします。

安井 孝徳

ひのき共同税務会計事務所/麹町オフィス代表 税理士平成10年早稲田大学社会科学部卒。デロイトトーマツ税理士法人を経て現職。上場企業及び外資系企業に対する税務申告業務から、公益法人コンサルティング業務、連結納税コンサルティング業務、事業再編・M&Aに係る税務業務、ストラクチャー検討業務、オーナー企業に対する税務業務などに従事。また、外資系企業やIPO準備会社など数社の監査役も兼務している。著書に「税理士のための会社清算の法律会計税務と申告書作成」(共著、清文社)、「Q&A業種別消費税の実務」(共著、中央経済社)がある。