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COLUMN

2022.01.25M&A全般

PMI(Post Merger Integration)について―②

  • M&A

執筆者:株式会社日税経営情報センター シニアマネージャー



前回のつづきをお送りいたします。
≫ 前回コラム: 『PMI(Post Merger Integration)について』

前回のコラムでは、PMIとしてはM&A実施以前から入念な事前準備を行うことが大切であり、そしてM&A実施後にはスピード感のある短期的統合プランの実行と中長期目標に向けた統合プロセスの評価、修正が大切であるということ、更にその統合プロセスにおける着眼ポイントとして、(1)経営者の経営理念やビジョン、(2)組織体制とガバナンス、(3)業務プロセス、(4)人事制度、(5)企業風土、があることをご紹介しました。
今回のコラムでは、これらの着眼ポイントについてもう少しお伝えします。

まず、経営理念やビジョンといったものですが、これはM&Aに限らず、全ての企業にとってその存在意義を語る経営の根幹をなすものです。
M&Aの場合には、従前の企業グループから更に新たな企業グループへと変化することになるので、ビジョンを考える上ではM&A後のグループとしての経営戦略の体系を踏まえたものである必要があります。この新しいビジョンの下、新たな組織体制と経営戦略の構築、業務プロセス刷新や企業資源の配分、企業文化の融合などが進められるわけですが、新しいビジョンの構想はM&A実施前の段階から考えられるものであり、その後、株主、従業員、取引先など企業のステークホルダーからも理解されるものでなければなりません。

組織体制、ガバナンスでの統合は、新組織の骨格・組織図の構築、意思決定プロセスの見直し、適切な人材配置という観点で進めることになりますが、いずれもスピードをもって行うことが重要であり、また、人事処遇制度とも絡むことから注意を要する問題です。
理想的には新しい考え方のもとで新たな体制を構築することが望ましいのですが、実際には旧来の企業体制のままで新たなスタートを切るケースが多く、スピードをもった新たな体制構築のためにはトップ経営者の強いリーダーシップが求められることになります。

業務プロセスの統合は、機能領域ごとに効率的な在り方を検討することになりますが、単純に生産設備など機能面での統合に留まるのではなく、アウトソーシングの利用検討や大規模なシステム化など抜本的な改革とも言えるレベルでの検討が求められます。
この業務プロセスの見直しは、新たな経営戦略と強く関係しており、M&Aによって新生される組織の強み・弱みなどの自己分析とも整合的なものであり、加えて、M&Aによって膨張した間接業務の効率化、取引条件や基準などの変更、構築なども議論される必要があります。

人事制度の統合については、①統合後に両社の制度が併存する、③どちらか一方に合わせる、④両社の折衷案、⑤新しい考え方の下で新規に構築する、というパターンに大別されます。この人事制度の問題は、従業員の士気や企業風土の融合とも関係する重要な問題であることから十分な議論が尽くされなければなりませんが、一方で新制度発足のタイミングも考慮される必要があります。
移行タイミングとしては、M&A実施後に早期導入されることが望ましく、その為にはM&A実施前の段階から議論をスタートしておくことが望まれますが、新たな経営戦略や組織体制とも整合的であることが求められることから、実際にはM&A実施後の経営戦略や組織体制を確認してから移行するケースが多くなっています。

企業風土の融合において、その基本となるものは経営者の哲学・理念、経営ビジョンといったものです。これは企業の根幹をなすものであり、長期的に企業文化を醸成する基となるものなのでM&Aにおいて発生しがちな当事者間の力関係とは関係なく、新たに構築されることが理想と考えられます。
また、この企業理念は従業員その他ステークホルダーから理解されやすいものであることが重要です。経営者の考えと周囲との理解に距離が出来てしまうことは避けねばなりません。このことを十分に踏まえて経営者は自身の考えを具現化する必要があるのです。
企業風土の融合を進める上で人同士のコミュニケーションが重要なことは言うまでもありません。コミュニケーションの有無は従業員のモチベーションに影響を与えます。
従業員のモチベーションは人事評価や経済的処遇からも影響を受けますから新しい人事制度の果たす役割はやはり大きなものがあります。
しかし、従業員のモチベーションに影響を与えるものは経済的処遇だけではありません。
組織内で自身の存在や働きが周囲から評価され、それを本人が実感として、いわゆる働き甲斐というものを感じる場合にもモチベーションは上がりますから、非経済的な側面も重要なのです。
従業員が経営理念に共感し、現場でのコミュニケーションを通じてモチベーションを向上させるよう経営者と従業員との間、さらには従業員同士のコミュニケーションの機会を提供するよう努める必要があります。

以上、PMIにおける着眼ポイントについてお伝えしましたが、重要なことは、PMIは決してM&Aに限定される特別なものではなく、経営者が企業を起こし育てていくストーリーの構築そのものとなんら変わるものではないということです。
M&Aのその後を成功させるためには、経営者自身が新たに企業を創造するという新しい考え方に立ってリーダーシップを発揮する必要があるのです。




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