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COLUMN

2022.02.03税務コンサルのポイント

【事業承継スキーム】持分会社スキームのその他留意事項

  • 富裕層コンサルのイロハ
  • 事業承継スキーム

執筆者:伊藤俊一 先生
※伊藤先生のプロフィール詳細は、本ページの最後にてご確認いただけます。



Q. 持分会社スキームのその他留意事項

持分会社を活用した相続税対策スキームに関する補足論点についてご教示ください。


Answer

仙台国税局文書回答事例は隅々まで把握しておくべきです。

【解説】
持分会社のうち、無限責任社員が存在する合名・合資会社においては、無限責任社員が死亡した場合において、債務超過であるとき、その無限責任社員の負担すべき債務超過部分が相続税の計算上、債務控除の対象となります。社員は連帯して会社の債務を弁済する責任を負うとするとされ、退社した社員は、退社以前に生じた会社の債務に対して責任を負わなければならないと会社法上規定されているためです。

以上を踏まえて、仙台国税局から文書回答事例が出されている論点が出てきます。債務超過状態にある合資会社の無限責任社員の父が子への事業承継に伴い、自らは有限責任社員となり子が有限責任社員から無限責任社員となった事例です。
当該ケースでは、無限責任社員であった父は有限責任社員になっても、2年間は無限責任社員としての責任を負い、2年経過後も債務超過状態である場合には、父は、責任が消滅したことによる経済的利益を受けるとして、所得税の課税が生じることとなり得ます。
また、その経済的利益は社員相互間の合意を基礎としているため、無限責任社員である子から有限責任社員である父への利益移転と見なされ、みなし贈与の対象となります。

【仙台国税局 文書回答事例「債務超過の合資会社の無限責任社員が有限責任社員となった場合等の贈与税等の課税関係について」】

別紙1-1 事前照会の趣旨

合資会社である当社(以下「当社」といいます。)は、時価による純資産価額がマイナス(以下「債務超過」といいます。)の状態にあるところ、当社の無限責任社員甲が有限責任社員になり、同時に、有限責任社員乙が無限責任社員になる場合の課税関係は次のとおりとなると解して差し支えないか、ご照会いたします。

  1. 会社法第583条第3 項の規定により、無限責任社員甲が有限責任社員になった場合には、原則として、甲に対し贈与税及び所得税の課税は生じない。
  2. 上記①の場合において、会社法第583条第4 項の規定により、社員変更登記後2年を経過した時に甲の有する当社に係る無限責任社員としての債務弁済責任が消滅するが、社員変更登記後2年を経過した時に当社が債務超過の状態の場合には、相続税法第9 条の規定により、甲の有する当社に係る無限責任社員としての債務弁済責任の消滅の利益について、甲に対し贈与税の課税が生じる。


別紙1-2 事前照会に係る取引等の事実関係
  1. 当社は、無限責任社員1名と有限責任社員1名で構成されており、無限責任社員は甲、有限責任社員は乙で、甲は乙の実父です。
    このたび、当社は、世代交代に伴い代表社員が交代いたします。
    社員2名の合資会社のまま代表権を移行するには、無限責任社員と有限責任社員が1名以上必要であるため、既存社員の責任を交代することで代表権を移行させたいと考えています。

  2. 当社は、責任交代時において、債務超過の状態にあり、甲に対する当社の債権者からの請求又は請求の予告はありません。

  3. 社員変更登記後2年を経過した時においても、当社は債務超過の状態が継続しており、社員変更登記後2年以内の間に、甲及び乙による当社の債務の弁済はなく、また、甲に対する当社の債権者からの請求又は請求の予告はないものといたします。

別紙1-3 事実関係に対して事前照会者の求める見解となることの理由
  1. 無限責任社員甲が有限責任社員となったときの課税関係
    会社法第580条第1項に規定する無限責任社員の責任は、持分会社(合名会社、合資会社又は合同会社)が会社財産による債務の完済不能な場合に、当該持分会社の債務を他の無限責任社員と連携して、債権者に対して負う責任とされています。
    この債務弁済責任は、同法第583条第3項及び第4項の規定に基づき、無限責任社員が有限責任社員となったとしても、なお、社員変更登記後2年間は従前と同じ無限責任社員としての責任を負うこととされています。
    したがって、無限責任社員甲が有限責任社員となったとしても、その時点で甲の従前の無限責任社員としての責任である当社に係る債務弁済責任が消滅したとはいえないことから、原則として甲に対し債務の引受け等による利益を受けたとしての贈与税及び所得税の課税関係は生じないものと考えます。

  2. 社員変更登記後2年を経過したときの甲の課税関係
    会社法第583条第4 項の規定によれば、有限責任社員となった甲が負っている従前の無限責任社員としての責任は、社員変更登記後2年以内に請求又は請求の予告をしない当社の債権者に対しては、社員変更登記後2年を経過した時に消滅します。このことから、この時点で当社が債務超過の状態の場合には、甲は債務を弁済する責任を負わないとする経済的利益を受けることになることから、甲に対し所得税の課税が生じることとなると考えます。
    ただし、その経済的利益は、甲が他の無限責任社員である乙から与えられた利益である個人間の贈与であると認められるときには、相続税法第9条に規定するみなし贈与の課税が生じることとなるものと考えます。
    甲の有する当社に係る無限責任社員としての債務弁済責任は社員変更登記後2年を経過した時に会社法第583条第4項の規定に基づき法的に消滅するものですが、合資会社は、無限責任社員と有限責任社員とをもって組織され、無限責任社員は、合名会社の社員と同じく会社債務につき各社員相互間で連帯して無限の責任を負うもので、社員相互間の人的信頼関係を基礎とする会社であり、また、甲が無限責任社員から有限責任社員に変更するに当たって、合資会社として存続するため、乙が有限責任社員から無限責任社員に変更する必要が生じ、そのため社員間の合意に基づき社員変更登記をし、その結果、甲の有する当社に係る無限責任社員としての債務弁済責任が消滅する一方、他の無限責任社員である乙は当社に係る債務について無限責任社員としての債務弁済責任を負うことになることからしますと、甲の債務弁済責任の消滅は、乙から与えられた利益(債務の減少)と考えられますことから、甲に対し相続税法第9条に規定するみなし贈与の課税が生じることとなると考えます。




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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。