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COLUMN

2022.02.08M&A全般

≪M&A道2丁目≫中小企業M&Aにおける5W1Hとは?―⑯

  • M&A

執筆者:株式会社日税経営情報センター シニアマネージャー



前回のつづきをお送りいたします。
≫ 前回コラム: 『≪M&A道2丁目≫中小企業M&Aにおける5W1Hとは?―⑮』

6. 中小企業のM&A戦略と目的(まとめ)

①売手買手間における交渉協議の場で本当に『5W1H』は役立つのか?

買手側においてある程度買収対象会社の調査が進み、売手買手間において本格的な条件交渉の場に入ると、初心貫徹すべきか方針転換すべきか、クロージングの直前まで自問自答しつつ、まるで禅問答をするかのような日々を過ごすことになります。それは、売手側においても買手側においても同様だと思われます。
第三者承継を考える中小企業のオーナー経営者にとって、M&Aとはそれだけ重たい話なのです。
創業社長にとって、売却対象会社は、「わが子と同じだ。」といった話をよく耳にします。2代目社長にとっても、実の父親が育てた会社を容易に手放すことに大きな抵抗感を持つことは当然のことといえます。そのために経営者は悩み続けるのです。
買手企業が中小企業であっても、いわば社運を賭けた勝負であり、買収資金を調達して買収実行できても、買収対象会社の事業運営を軌道に乗せることができなければ、会社経営を傾かせてしまうことになってしまいます。

買手企業においてM&Aの実行自体が目的化することは危険なことです。それこそ会社経営を傾かせることになりかねない発想です。
M&A自体が経営者の自己承認欲求ではなく社会的ニーズを踏まえたものなのかどうか、時代の流れをくみ取ったものなのかどうか、投資採算に見合うような資金計画はできているのか。M&Aの実行そのものが誰のため、何のために行われるものなのか。
M&Aの実行自体が結果として自社事業の拡大に役立つものなのか役立たないものなってしまうかは買手側の経営者の力量次第ではないかと思われます。

売手側である経営者も、これまで築き上げてきた売却対象会社を果たして買手側経営者に託すことに判断の誤りがなかったのかどうか。自問自答はクロージングまで続きます。そのため、迷ったら、悩んだら、ひたすら突き進むのではなく、原点回帰の視座に立つ必要があるものと思われます。そのための論点整理が『5W1H』です。
M&Aアドバイザーがいれば、この『5W1H』の論点整理を客観的に「見える化」させ、そんな中小企業経営者の方々の苦悩に寄り添えることができるかどうかが重要な役割期待となります。

最後のプレゼントは、自分や家族へのご褒美としての創業者利潤の追求か、役職員や取引先や外部株主などの利害関係人(ステークホルダー)のための事業承継となっているか、そして、地域経済の発展のためとなっているか。
こうしたことは、事業承継する側、される側のいずれにとって、何が相応しいのか、望ましいのかといった問題ではないように思われますが、要は創業経営者として『それが一番大事』と思えること思えることが決断の要になるのだろうと思われます。そして、その一番大事と思えることを見定める上でも、その手段として『5W1H』を自問自答しておくことが、『それが一番大事』を見極めることに繋がるのだろうと思われます。長年M&Aアドバイザリー業務に携わってきた一員としてつくづく感じることなのです。


②『5W1H』の本質とは何か、筆者が伝えたいこと(結論)

この章では、これまで中小企業M&Aにおける『5W1H』について説明してきました。売手側にとっても買手側にとっても、この『5W1H』を事前に明確化しておくことがM&Aで失敗しないための要諦であることが理解できたと思います。
交渉協議に晒されても、芯はぶれないM&Aを遂行し、事業戦略上シナジー効果が有効に働くM&Aを達成する上では欠くべからざるエッセンスがこの『5W1H』です。
しかし、この『5W1H』を生かせるかどうかは、当事者がそれをどのように理解し、活用するかにかかっています。上手に活用していくためには、独善的な判断は諸刃の剣となりかねません。
そのためにM&Aアドバイザーの存在が重要です。M&Aアドバイザーとの信頼関係を構築し有効に活用できれば、M&Aアドバイザーはオーナー経営者にとっても、買手企業の経営陣にとっても、社外の作戦参謀となることができます。
M&Aアドバイザーが社外の作戦参謀となることができれば、社内の利害に拘ることなく客観視することができ、案件全体を俯瞰しながら案件プロセスをマネジメントすることができます。もちろん、社外の作戦参謀は必ずしも社内事情に精通している訳ではありませんので、時として立場の違いからすぐに意見の一致をみることができないようなこともあるかもしれません。しかし、すぐに意見の一致をみることができないからといって関係メンバーとの議論を避けてはいけません。多面的に物事を考えることも大事なことです。

昭和初期の東洋思想の研究者で政財界のリーダーの啓発・強化に努め後に国民的教育者となった安岡正篤氏のことばに以下のようなものがあります。『思考の三原則』というものがありますので、ご参考までにここに引用します。

『私は物事を、特に難しい問題を考えるときには、いつも三つの原則に依る様に努めている。第一は、目先に捉われないで、出来るだけ長い目で見ること、第二は物事の一面に捉われないで、出来るだけ多面的に、出来得れば全面的に見ること、第三に何事によらず枝葉末節に捉われず、根本的に考えるということである。』

私がいつも生きる上で、また、M&Aアドバイザーとしてモットーとしていることばです。
物事を長期的、多面的、根本的に考えるといわれても、人は仏様ではありませんので、そう簡単なことでもありません。いうまでもなく、人は日々雑念に振り回され、煩悩に惑わされたりするものです。
また、M&Aの交渉協議で相手との軋轢が生じれば、そんなに冷静に判断し、王道をまっすぐひたすら突き進むことなどなかなかできないものです。だからこそ、社内外の作戦参謀が必要であり、殊の外、M&Aに関する限り、外部アドバイザーの存在はその役割期待として重要になってくるものと考えます。

M&Aは、多くの場合、売主となるオーナー経営者にとって一生に一回、そうでなくとも度々遭遇することではありませんので、戸惑うこともあろうかと思います。
買手企業の経営者にとっては、度々M&Aを積極的に取り入れたいと考え金融機関やM&A仲介機関などに案件持ち込みを依頼しても、実際にはなかなかM&A売り案件が持ち込まれないだとか、また、持ち込まれても相手先との協議途上で決裂してしまう、といった事情を抱えていることもあるでしょう。
しかし、それでも諦めないでください。とりわけ、M&Aで買いたいと雄叫びを上げている企業は数多あるのです。買収ニーズを表明している企業もピンキリです。本気で検討している企業あれば、興味本位でとりあえず手を挙げている企業もあります。M&Aアドバイザーも買いニーズ対応の場合、企業経営者の本気度合いについては注視しております。M&Aはそんなに簡単にはいきませんので、とにかく諦めないことです。
そんなに簡単にはいかないとはいうものではあるものの、中小企業M&Aの取り扱いは世間的にも非常に増えております。経験豊かで高い知見をもつM&Aアドバイザーに巡り合われることを心から祈念しております。

閑話休題。M&Aにおける『5W1H』の話に戻しますと、これまで延々と述べてきました思考整理法としての『5W1H』ですが、その日々の振り返りと実践の繰り返しで見えてくる行動原則は何でしょうか。それもまた、『5W1H』といえます。『5W1H』の思考整理によって見えてくる行動原則の『5W1H』とは、次のように考えればよいのではないでしょうか。
すなわち、翼(『Wing』)をつけて清水の舞台から飛び降りるような気持ちで羽ばたく。羽ばたくと見えてくる景色が変わる。鳥瞰することができる(『Wide』)。その結果、売手よし、買手よし、世間よし(すなわち、『Win-Win-Win』)。それでも煩悩に惑わされたら原点回帰(『back to Home』)ではないでしょうか。


最後までこのコラムにお付き合い頂き、誠に有難うございました。お読み頂きました読者の皆さま方に心より感謝申し上げます。皆様方にとりまして、何かの気づきがひとつでもあれば幸いです。
『税理士とその関与先のために』お役に立てれば、弊社グループにとりましてこの上ないことです。




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