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COLUMN

2022.03.29M&A全般

事業再生について―②

  • M&A
  • 事業再生

執筆者:株式会社日税経営情報センター シニアマネージャー



前回のつづきをお送りいたします。
≫ 前回コラム: 『事業再生について―①』

準則型私的整理のうち、中小企業が利用するものとしては、まず中小企業再生支援協議会(協議会)の事業再生スキームが挙げられます。
協議会は都道県ごとに設置されており、専任の専門家を配置して、各中小企業の相談を受付け、公正中立な立場から再生に必要な助言や再生計画の策定支援を行っています。支援対象企業には従業員数100名以下、売上高1~5億円程度の企業が多くなっています。
利用はあくまでも中小企業に限定されており、大企業や上場企業は対象にはなりません。
相談案件のうち、再生可能性があり、支援を行なう意義があると協議会が判断した場合には、弁護士、会計士、税理士など専門家からなる支援チームが組成され、財務や事業に対するデューデリジェンス、金融機関との調整など再生支援が進められます。支援の開始段階では、協議会に常駐する専門家と企業経営者の連名で返済猶予などの要請を債権者に行いますが、債権者に対して突然通知をするというものではなく、金融機関に対して予め意向の確認をした上で通知を行うという具合に穏やかに進めている様です。
債権放棄を伴う場合には、原則として外部専門家としての弁護士が再生計画調査報告書を作成します。債権者会議の開催は義務ではなく、任意となっており、債権者全員の同意によって再生計画が成立します。

この協議会スキームの特徴は、再生計画が一定の要件を満たした場合には金融機関にとって「実現可能な抜本的な計画」として認識され、金融機関が不良債権として取り扱う必要がないことや、初期段階でリスケジュール計画と経営改善計画に基づいて一旦経営を進め、一定期間後の状況を確認した上で債権カットを含む抜本的な再生計画の策定を行うといった柔軟性を有している点が特徴といえます。
協議会が支援を行う際の準則である「中小企業再生支援協議会事業実施基本要領」では、再生計画の要件として、5年以内の実質債務超過解消、3年以内の黒字化、有利子負債キャッシュフロー倍率10倍以内といった数値基準が定められていますが、一方で数値基準を満たさない計画案も許容されていることもあってリスケ型の計画案が多く、債権放棄を伴うものが少なくなっています。このため苦境にある企業を抜本的に再生させているというよりも延命させているだけではないかとの批判もあります。

協議会スキームは、手続にかかる費用負担の点でも特徴があります。一般には受益者負担という考えから費用を債務者企業が負担することが原則ですが、この協議会スキームを利用する場合には国の事業費から費用補助がなされており、資金の乏しい中小企業にとっては他の再生スキームに比べて協議会スキームが利用しやすくなっています。

次に、同じく準則型私的整理とされる事業再生ADRによる手続を紹介します。
事業再生ADRは、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(ADR法)に基づく法務大臣の認証と「産業競争力強化法」(産競法)に基づく経済産業大臣の認定の両方を受けた「認証紛争解決事業者」が中立的第三者の立場から行う裁判外紛争解決手続です。
現在、この認証紛争解決事業者として認証されているのは「事業再生実務家協会」(JATP)だけとなっています。
事業再生ADR手続は、私的整理ガイドラインをベースとしています。JATPが選任した専門家が債務者企業の財務と事業に係るデューデリジェンスを実施した後に債権者に対して債務者との連名で一時停止要請を行い、その後2週間以内に債権者会議へと進行します。債権者会議は、再生計画案の概要説明(第1回目)、計画案の協議(第2回目)、計画案の決議(第3回目)として3回の開催が想定されており、全ての債権者に計画案が受諾されることによって事業再生ADR手続が完了します。一時停止の通知から5カ月程度で再生計画の成否が決定されるという迅速性が特徴と言えます。
また、事業再生ADRでは対象となる債務者企業が中小企業に限定されず、上場企業や大企業も利用出来ることになっており、この点は協議会スキームとは異なる特徴です。
手続開始後に事業継続に必要な資金を借入れる(プレDIPファイナンス)場合には、中小企業基盤整備機構の債務保証など融資を進めやすくするための措置も施されています。産競法では、事業再生ADRが成立せずに民事再生や会社更生の手続に移行する場合にはプレDIPファイナンスについて民事再生や会社更生の計画において一般の倒産債権よりも優先的に弁済を行う事が許容されており、このようなプレDIPファイナンスの保護が制度的に整えられている点も特徴と言えます。
事業価値の毀損を回避しながら迅速に柔軟で透明性のある手続を行える事業再生ADRですが、利用件数は多くはない様です。この大きな理由としては、手続費用が高額になるという点が挙げられます。JATPに支払う費用は債権者数や債務額に応じて4段階に区分されて標準額が決められており、さらに関与する専門家への報酬支払が加わります。これらの費用はそのまま債務者の負担となり、協議会スキームのように国からの支出がありませんので中小企業には利用し難い制度と捉えられている様です。

以上、準則型私的整理の代表的なものとして2例を取り上げました。
苦境に陥った企業が法的整理を避けてまずは私的整理手続で再生を目指すというのは道理に適ったことと思われますが、私的整理が100%成功するという保証はどこにもなく、少しでも成功率を上げるためには早期対応が重要ということは指摘できます。税理士先生など、日常から企業を洞察できる立場にあるコンサルタントは大変重要な役割を負っているということになります。




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