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COLUMN

2023.05.16M&A全般

「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2023」

  • M&A

東京証券取式所(東証)が4月に「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2023」を発表しました。この白書は上場各社が提出した「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の内容を東証が分析を行って発表するもので2007年から隔年で発表されているものです。今回の2023年版では前回の2021年版に比べて「資本コストを意識した経営」や「サステナビリティを巡る課題への取組み」が大きく取り上げられるようになっています。
まず、資本コスト経営についてですが、これは2021年版白書では「株主との対話」の中で言及されているのですが、今回の2023年版白書では事業ポートフォリオ再編戦略や政策保有株式と共により大きな取上げとなっています。そもそも資本コストの概念は、日本企業では事業ポートフォリオの見直しや経営陣の資本コストに対する意識が不十分であり、自社が資本コストを上回るリターンを上げられているかどうかについて投資家と企業との間に認識の相違があるとの指摘を背景に2018年のコーポレート・ガバナンスコード(CG)改訂以来言及されているテーマなのです。CGでは、政策保有株式については、保有による便益が資本コストに見合ったものになっているのか精査を求めており、資本コストについては、自社の資本コストを把握すること、収益計画や資本政策の基本的方針を示すこと、収益力や資本効率などに関する目標を提示すること、目標実現のために設備投資・研究開発・人的資本投資などを含む経営資源の配分を具体的にどのように行うのかなどを株主に説明すること、が求められています。その後、2021年の2度目のCG改訂でも、事業ポートフォリオに関する基本的な方針と事業ポートフォリオの見直しの状況を分かりやすく示すことが求められるなど、近年、資本コストに関する取上げは強められてきました。2023年版白書では、一般社団法人生命保険協会が行った調査結果を引用しており、それによれば、日本企業では約7割の企業が自社の資本コストについて詳細を把握していますが、3割の企業では具体的数値として把握できておらず、また、資本コストを把握している企業では多くの企業が自社の資本コストを5~7%台として把握しています。同調査では、重要な経営指標としてROE(株主資本利益率)を取上げる企業が50%以上ある一方で投資家サイドが重要視する資本コストやROIC(投下資本利益率)を重要指標として取上げる企業は少なく、逆に企業では売上高を重要視する声が多くなっています。ROEが自社の資本コストを超過しているか否かについては、企業の認識では超過しているとする声が多い一方で投資家サイドの認識としては下回っている又は同程度と見る声が多くなっており、この点について投資家と企業の認識ギャップがあることがわかります。資本コストは投資家サイドから見た場合の企業に対する要求リターンと呼べるものです。日本の企業経営者が認識している水準と投資家、特にグローバルな視点で投資分析する投資家が要求するリターンの水準が異なっていると言えるのです。ちなみに、2014年に出された伊藤レポート初版ではROEについては8%以上を最低ラインとしてより高い水準を目指すべきと指摘しています。資本コストとして求められる水準が高ければROEにはより高い水準が求められます。昨今のPBR(株価純資産倍率)1倍割れ問題においても、日本の企業は利益率が低く、その評価として株価が低く(株価が純資産価値を割り込む)なっているとの指摘があります。利益率を上げるためには事業ポートフォリオの見直しが重要ですが、この点についてCG白書では、日本企業において事業ポートフォリオ見直しについての認識が高まりつつあるものの、合併・買収(M&A)と比較すると、事業の切り出しに対しては消極的な企業も多く、必ずしも十分に行われていない状況にあるとの言及がなされています。
2023年版CG白書ではサステナビリティへの取組みについても取り上げが大きくなっています。コーポレート・ガバナンス改革を通じて収益性への注目が増える一方で短期的な収益追求に陥る危険性もあることから非財務情報を重視して中長期的な企業価値向上の観点から企業を評価することの重要性が背景にあります。白書では、企業のCG報告書を分析し、サステナビリティが重要な経営課題であるという視点がある程度浸透しつつあるのではないかと記述しており、また、サステナビリティ要素に関するキーワードとして、「ダイバーシティ・多様性」 (91.0%)、「女性」(75.4%)、「従業員」(83.2%)、「取引先」(53.9%)、「人的資本」(55.5%)といった単語が多く用いられている点も指摘されています。サステナビリティという観点からの投資は中長期的にその効果を発揮するものであり、短期的にはむしろコストとして認識されるものも少なくなく、株主とその他ステークホルダーからの理解も重要になってきます。経営者は、資本コストと収益性、そしてサステナビリティの観点も考慮に入れてステークホルダーとの対話が求められ、大変高度な経営判断を任されることになるのです。



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