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COLUMN

2023.08.08M&A全般

敵対的買収の是非について

  • M&A

執筆者:株式会社日税経営情報センター シニアマネージャー


企業買収において、対象会社の同意を得ずに買収を進める場合、これらは一般に敵対的買収とか非友好的買収と呼ばれています。非公開会社の場合には取締役会の承認を得なければそもそも株式購入が出来ませんので、敵対的買収は自由に株式を購入できる上場会社を対象としてその企業の取締役会の同意を得ずに行われるということになります。ところで、会社の所有者(株主)が自ら会社経営を行わずに取締役にその経営を委ねる場合、所有と経営が分離されていることになり、所謂「エージェンシー問題」というものが発生することになります。取締役は株主から経営を委託された代理人とも言うべき立場になるので株主の利益の為に会社経営を行うことが期待される一方で取締役が独自の利害のために株主利益に反した行動をとる可能性があるという問題です。敵対的買収に関する議論においてもこのエージェンシー問題を想起させるものがあります。買収者が現在の取締役の経営では株式価値が上がらないので株主共通の利益に適わないとして、現在の経営陣の退陣と新たな経営施策を提案しているような場合です。しかし、買収者が対象会社の企業価値の上昇よりも対象会社から自己の利益を収奪することを目的として買収を進めようとする場合には、エージェンシー問題ではなく、当該買収者とその他株主との間に利益相反の関係が生じていると見ることになります。敵対的買収を評価する場合、買収提案が株主共通の利益に適うものなのか、或いは買収者の利益獲得を目的としているものなのかを見定める事が大変重要です。買収対象となる会社の取締役は買収防衛策を導入して買収を阻止しようとすることがあり、防衛策の適否が裁判でも議論の対象となっていますが、一般的には敵対的買収が株主はじめ多くの会社関係者の利益に反する場合には買収阻止が許されると考えられています。ここで注意を要するのは取締役が負うべき信認義務とは何かということです。例として、対象会社の取締役会が第三者への売却を意思決定した後に別の第三者から敵対的買収を仕掛けられた場合に買収防衛策を発動できるか否かという問題を考えますと、米国では、対象会社の取締役会が売却を決めた時点で取締役としての信認義務はその株主にとって最良の条件で売却をすべき義務に変化すると考えられ(レブロン義務)、防衛策を発動することは出来なくなります。しかし、日本では判例上、対象会社の取締役会は売却を決めたからといってレブロン義務を負うものとはされず、株主ではなく会社に対して善管注意義務を負うものとされ、会社の売却価格の最大化を図るというよりも企業価値成長を図る義務を負っているものと考えられているようです。買収防衛策の適否を考える上で対象会社や一般株主からの買収者への利益移転が生じるか否かがポイントになるのですが、これに該当するケースとしては、ライブドア社がニッポン放送に対して行った敵対的買収事件において東京高裁が示した4類型がよく挙げられます。内容は、(1)会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、株価をつり上げて高値で株式を会社に引き取らせることを狙った買収(所謂グリーンメイリング)、 (2)会社を一時的に支配して当該会社の重要な知的財産権その他技術情報、取引先、顧客、営業ノウハウなどを買収者の関係法人に移譲させた後に対象会社の工場や事業所を閉鎖するような焦土化、(3)経営を支配した後に対象会社の資産を買収者やそのグループの債務の担保や弁済原資として流用することを目的で行う買収、(4)会社を支配して対象会社の事業に強く関係しない資産の処分を行って、その処分利益で高配当をさせたりする目的で行う買収、が挙げられており、これらに対しては防衛策が正当化されるものと考えられます。他にも防衛策が正当化されると考えられるケースとして、いわゆる東京機械製作所事件の際に買収手法が強圧性を有する場合として東京高等裁判所が示した判断が挙げられます。これは、買収者がTOB規則の適応対象外である市場内取引で大量の株式を短期間で買収するなどし、投資判断のために十分な情報と時間がない一般投資家にリスク回避としての売却行動を動機付けさせるような買収行動です。また買収価格が会社の本源的価値に比べて低すぎる場合や中長期的な企業価値が毀損される又は企業価値最大化が妨げられる場合にも防衛策が正当化されると考えられています。以上のようなケースでは買買収防衛策が正当化されるのですが、逆に買収提案が一般投資家にとって利益がある場合、防衛策の発動は取締役会が保身を目的としたものであると見なされる可能性があるわけです。これは先に述べたエージェンシー問題に立脚した見方であり、敵対的買収をむしろ肯定する考えです。敵対的買収を肯定する見方としては、他にも企業経営の効率性に立脚したものがあります。対象会社の経営陣よりも敵対的買収者の方が経営能力に優れ、企業価値を向上させてくれるので株主はじめ多くの関係者にとって敵対的買収は利益になるとの考えです。敵対的買収は「敵対的」ということを理由に否定されるべきではなく、当該買収が株主はじめ多くのステークホルダーの利益につながるものであれば肯定的に見てよいものと思われます。しかし買収者が利益を得る一方で他の一般株主や会社関係者の利益が犠牲にされるなど市場の健全性が阻害されることは避けねばなりません。夫々の買収提案がはたしてどのような効果をもたらすのかを見極めることが重要なのです。




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